手作り看板、古着屋の個性あふれるマネキン、世界観が作り込まれた店舗デザイン、カフェやギャラリーのような美容室、そんな個性的なお店が立ち並ぶエリアがまちの中心地から少し離れた「周縁部」に突然現れることがあります。

ちなみに「周縁部」とは、中心ではない場所・立場。地理的にも、社会的にも「外側」にあるものを表す言葉です。

今回のマチジカンでは、「周縁部」でお店の集積度が高く注目が集まるエリアをご紹介し、そのまちの共通点を検証したいと思います!


住宅地の奥行きに息づく洗練されたまち・東京都渋谷区「奥渋谷」

写真手前の「Coffee Supreme」のように開口部が大きく、道路にも椅子を設置する店舗がエリア全体に多い。
アパレルとソフトクリームのお店「grapevine by k3」。2022年にキャットストリートから移転。

「オクシブ」の愛称で認知度を上げる「奥渋谷(おくしぶや)」は、JR渋谷駅から少し離れた神山町・富ヶ谷エリアを指す通称です。

渋谷駅から徒歩15分強、代々木公園の南西側に位置します。渋谷の喧騒から離れた立地にあることからその名前で呼ばれるように。「奥神楽坂」「奥原宿」「奥代官山」などと同様、主要駅などある中心から少し離れた洗練されたエリアを意味します。

元々は住宅地として発展し、特に松濤は高級住宅街として知られていました。

渋谷周縁としての奥渋エリアを示す。

この閑静な住宅街が出店エリアとして注目されたのは2000年代後半。表参道・原宿エリアの地価高騰により比較的安価な奥渋谷に注目が集まりました。

以降、2010年代にかけて個性的な飲食店舗やクリエイティブ系の事務所、ギャラリーが集積し、最近では「大人の渋谷」「隠れ家グルメの聖地」として渋谷の新たな魅力を発信するエリアとしてグルメ冊子やライフスタイル誌・SNSで取り上げられるように。

いわば、計画的な開発ではなく、自然発生的に住宅地から商業エリアへと変化していったのです。


古民家が活きるノスタルジックなまち 大阪市北区「中崎町」

手作りの看板が連なる、中崎町らしい風景。
「珈琲舎・書肆アラビク」:本×人形×コーヒーが融合した個性的なブックカフェ。

続いて関西圏からのご紹介です。奥渋同様に自然発生的に住宅地に出店が増えた大阪のエリアが「中崎町」。このエリアは梅田・大阪駅から徒歩10分強のところに位置し、規模が小さく裏路地も多いことから、散策しながら楽しめるレトロエリアとして話題になっています。

梅田周縁としての中崎町エリアを示す

梅田の東側に位置する中崎町は、戦前からのまちなみが今も残る、梅田近郊でも貴重なエリア。

梅田と中崎町の間にある茶屋町は、1990年代から開発が進み次々と建設が行われて梅田の繁華街が拡張されました。一方、戦災を逃れた中崎町では高齢化が進み、空き家・空き店舗が多く、開発から取り残されていたのです。

梅田の高層ビル群からほんの数分歩くだけで、急に時間の流れがゆっくりになり、木造長屋が並ぶ路地に郷愁を感じる大阪の人たちも多いはず。

2000年代初頭から、そんな長屋にアーティストやクリエイターが古民家を借りはじめ、以降リノベーションを施したカフェやギャラリー、古着屋が次々出店。今では「レトロとトレンドが共存するまち」として若者を中心に人気を集めています。


多様なトレンドがひしめき合う多彩なまち 福岡市「大名」

美容からアパレルまで多様な業態のトレンドショップや専門性の高いショップに若者が集まる。
「The REAL McCOY’S Fukuoka」ミリタリーアメリカンカジュアルのファッションブランド。

最後に取り上げるのは福岡市の大名です。福岡市中央区のほぼ中心、天神の西側に隣接する大名。かつては武家屋敷が立ち並ぶ静かな町でした。

オフィスや百貨店、ファッションビルが集中する中心地「天神」のすぐ隣にあり、徒歩10分あれば端から端まで歩くことができるコンパクトなエリアです。立地の良さから、週末は特に、感度の高い若者たちがトレンドを追い求め訪れ、夜も飲食店が豊富なため、一日中賑わいで溢れています。

天神・周縁としての大名エリアを示す。

住宅や古めの雑居ビルが多く比較的静かなエリアだった大名。1990年代前半に西通りを中心とした繁華街化が進む流れの中で、大名にも1990年代後半からセレクトショップやカフェが出店し始めました。

雑居ビルの改装などと共に新しいテナントも集まるようになり、昨今はファッション・カフェ、バーに加え、クリエイターやアーティストの拠点としても注目が集まっています。



歩いて感じる共通点

これらのエリアを歩くとその環境についていくつか共通点が見受けられます。

1:栄えた中心部から少し離れており、周辺と比較して建物の高さが低い

この航空写真は大阪市中崎町を北東側から鳥瞰したものですが、建物高さが低く小中規模の建物が集積していることがわかります。また中心部にある駅から徒歩10分から15分で訪れることができるエリアであり、歩行者も少なくありません。

2:木造家屋や雑居ビルなど、既存建築を改修した店舗が多い

集積している店舗の多くが、リノベーションによる素材感が際立つ奥行きのあるデザインや、雑居ビルの躯体を生かした開放感のあるデザインが施されており、各お店の世界観がよく演出されているように感じます。

3:チェーン店が少なく、個店が多い

チェーン店にとって駅構内や大型商業施設への出店は、客足が期待できる絶好の条件と考えられます。一方、個店を営むオーナーやクリエイターにとっては、賃料の高さや施設のルールなどが障壁となるのではないでしょうか。

次回の記事では、これらの共通点から見えてくる「個性的なお店がまちの周縁部?に集まる法則」について、独自に調査している内容をご紹介します。お楽しみに。

Text:小山朝子
なぜ人がそこに集まるのか、どうして愛される街になるのか、そんなことを考えながらお仕事をしています。街歩きは偶然と必然が織りなすドラマを楽しむようなもの…!