未利用地の緑化でローカルワインを

東京のビルの屋上を緑化しながら、環境にも優しいローカルワインをつくることはできないだろうか。

「シティヴィンヤードプロジェクト」は、そんな仮説を実証するためにはじまったエコロジーなワインづくりプロジェクト。竹中工務店と、ワイン醸造を担当する「深川ワイナリー」、米国ブルックリンの実践者であり栽培ノウハウを提供する「ROOFTOP REDS」が手を組み、3社が連携して2020年から実証実験を行っています。

プロジェクトの舞台となる東京都江東区では、緑化推進事業「CITY IN THE GREEN 緑に囲まれる街」​​を政策の一部に掲げており、自然と都市が一体となったまちづくりを進めています。また、江東区には豊洲市場や地元のひとに愛される昔ながらの飲食店が多くあり、食文化が根付くまちでもあります。こうした「緑に囲まれるまち」「食文化が根付くまち」というエリアの文脈を活かし、地域のシビックプライドを醸成するローカルワインづくりがはじまりました。

竹中工務店の東京本社でも、屋上でブドウを育てることができるかの実験を行いました。

赤札堂深川店の屋上でワインづくり

2020年に江東区門前仲町にあるスーパーマーケット・赤札堂深川店の屋上でスタートした実証実験。ビルの屋上には100本のブドウの苗が植えられ、栽培を担当する竹中工務店は「made in 深川」のワインができるのを心待ちにブドウの栽培を続けてきました。ブドウが育つにつれ、何もなかった屋上が緑あふれる空間へと変化し、緑化も進んでいきました。

栽培を始めてから3年目となる2020年には初収穫を迎えました。少量ではあったものの、2キロほどのブドウを収穫し、東京の屋上でも十分にブドウが栽培できることを証明しました。現在では42キロまで収穫できるように。

こちらは2022年に栽培・収穫したブドウ。
今後は収穫量を増やし、深川産ワインを作ることを目指します。

緑あふれる屋上が交流の場所に

同プロジェクトのもうひとつの目的は、ワインづくりを通じたコミュニケーションの創出です。訪れた人が交流できるようにと、屋上には「赤札堂モデルガーデン(深川ワインガーデン)」と称したブドウ畑併設のルーフトップガーデンが誕生しました。(現在は屋上に店舗開設したパーフェクトビールにて飲食が可能)

ワインにするため、収穫したブドウの果汁を抽出する様子。

コンクリート舗装された屋上は、日光の強い夏は照り返しや蓄熱があり、体感気温が暑くなるという課題があります。そこで、訪れたひとが夏でも安らげるよう、ウッドデッキとパーゴラを設置。森林の川上と川下をつなぐ「森林グランドサイクル」のコンセプトを具現化するため、木材は江東区を流れる荒川上流に位置する埼玉県小川町のものを使用し、日陰の下で飲食やイベントができる快適な空間を整備しました。

ウッドデッキとパーゴラで快適な木質空間を実現。

完成したガーデンスペースでは、ブドウ棚を眺めながら深川ワイナリーのワインが楽しめます。都心部にいながら、ブドウの成長を見守ったり、ワインづくりの過程を体験できるのも同プロジェクトの魅力のひとつ。収穫は深川ワイナリーの常連客やファンを中心として収穫体験を行うなど、地域を巻き込みながらワインづくりに取り組んでいます。

ブドウを収穫する子ども。地域住民にも手伝ってもらいながら収穫作業を行いました。

新たなにぎわいや交流の創出を目的とし、ウッドデッキを舞台に見立てたバレエ演劇や、深川のまちづくりのキーパーソンを招待していくソーシャルバーなど、多種多様なイベントも実施しています。

空間整備のために設置したウッドデッキとパーゴラはイベント時にも大活躍。