サーキュラーエコノミーの最先端国・オランダにて循環型社会達成のためにどんな取り組みが行われているかを体感すべく、オランダのアムステルダムを訪れました。

アムステルダムでは様々なエリアでオランダ人ならではの大胆かつ合理的な仕組みづくりが行われており、新たな価値観をつくりだす工夫を学ぶことができました。

サーキュラーエコノミーを実践しているひとたちに共通することは、「Learning by Doing」(やりながら考える)という心構えでした。「大きく考えて小さく始める」、「正解はまだ誰も知らない」、「自分事化して楽しんでしまおう!」という姿勢は是非私たちも取り入れたいです。

サーキュラーエコノミー実験区「 De Ceuvel」(デ・クーベル)

造船所であったエリアを再活用するコンペで最優秀賞に選ばれ、期間限定で実現したプロジェクト「De Ceuvel」。アムステルダムの北部のアムステルダムノールドにあるサーキュラーエコノミーの実験地区で、人間が足を踏み入れることすらできないほど汚染した土壌を植物の力で浄化しながら、スタートアップ企業を誘致して賃貸ビジネスを行う仕組みとなっていました。

今では16棟ほどのオフィスに30以上のスタートアップ企業が入居し、カフェ、ホテル、サウナなども併設されています。

汚染された土壌には浄化作用のある植物が植えられており汚染度はモニタリングしている。利用者はブリッジから各建物へアクセスできる。

驚くことに、ここにある建屋は全て廃材で出来ているそうです。レストランはアムステルダムの街中から回収した廃材を再利用して建てられ、各オフィスは故障した船などをアップサイクルして活用されています。

また、建築だけでなく、コンポストトイレ(全くの無臭!)アクアポニックスのシステム(魚と植物を同じシステムで育てる仕組み。食料廃棄物などをミミズに与え、それを魚の餌にし、魚の排泄物などの栄養分を含んだ水を植物へ供給、菜園で育てた野菜を人間が食べ、植物によって浄化した水は水槽へ戻す、という循環システム)など、エリア内で水や栄養素などの循環も行う仕組みも導入されていました。

また、屋上に設置された太陽光パネルにより、夏場は全ての電源が自給自足で賄われるとのことです。

故障した船をアップサイクルしたオフィス。
屋上菜園。アクアポニックスにより水分と栄養分が供給されている。
アムステルダム市の解体現場から集めた廃材で作られたレストラン。

オランダ人は昔から商売上手だといわれますが、ここでも持続可能な観光のビジネスモデルができていました。

「De Ceuvel」はサーキュラーエコノミー関連の視察では必ずと言っていいほど旅程に組み込まれるそう。コロナ禍前は一日に8回ものガイドツアー(一回数万円)を開催していたという点に驚きました。

また、とても興味深いのは、いわゆる「環境意識高い系」の人だけが使っているのではないという点です。週末や気候のいい時期には多くの地元の若者や観光客が集まります(年間7〜8万人)。「クリーンテックの遊び場」がコンセプトになっているそうで、オランダ人の遊び心が伺えます。

環境対策に取り組んでいるエリアがおしゃれで集いたくなる場所になっている、そういった意識が浸透していくと、社会の見方は変わっていくのではと思います。ここに暮らす人々はとても誇りを持っているように感じました。

このデ・クーベルの開発は、もともとは2012年にオランダ市がこの汚染された土地を活用するアイデアを民間から募ったところから始まりました。建築家やサスティナブル専門家、起業家など多様なチームメンバーの技術・知識が集結しなければ実現は難しかったことでしょう。

コミュニティ主導で進められたからこそ、10年以上たった今も環境の最先端事例として走り続けられているのだと思います。こういった実験的な取り組みは、官民連携で進めることがヒントなのかもしれません。

この日も多くの若者であふれています!

つかう工夫、価値あるものは使い続けるまち

オランダでは、古いものを工夫して使い続けようという意識が根付いています。利用されなくなった古い建物や構造物をコンバージョンして新しい価値を生み出している事例を多く見ることができました。そのいくつかをご紹介します。

LocHal Library

1932年に建てられた鉄道整備工場を図書館へと改修した例です。工場の大空間を活かし、様々な用途を包括する作りとなっていました。

鉄骨架構・クレーンなども無骨なインテリアとしてそのまま活用しています。建物を使い続けるというエコロジーな観点に加えて、背景にある歴史を感じ取ることができ、「新築で建てるよりも価値のある」建物となっていると感じました。新築ではありえない構成や素材感が、この空間を豊かなものとし、より深みのある建築となっています。

大きな階段状の吹抜け空間がカーテンにより緩やかに区切られている。
鉄道の車輪をアップサイクルした机。レールも残っており、頑張って押せば動く仕組みに。
工場の無骨な質感をそのままインテリアとして見せている。

BUNK Hotel

1921年に建造され、戦後再建された「St. Rita」という教会をホテルへコンバージョンした事例。「教会に泊まる」という体験自体が価値になっています。これも宗教に寛容なオランダならではの大胆な発想です。(カトリックなどの信仰の強い諸国からすると教会を転用することはあり得ない考えだそうです)

教会の佇まいをそのまま活かした外観。
架構はそのまま活かしながら床を増設し、内部に多くの客室を配置している ライティングやグラフィックはモダンなイメージ。
とても教会の中に泊まっているとは思えないようなモダンな客室インテリア。
客室には小さなごみ箱がひとつだけ。それも「できるだけこのごみ箱に捨てないで」と書いてある リサイクルの意識が徹底されている。

Faralda Crane Hotel

最後に、アムステルダムの中でも特に尖ったコンバージョン事例をご紹介します。高さ50mの港のクレーンのフレームの中に作られたホテルです。なんと一泊の料金が10万円以上の超高級ホテルです。

たった3部屋しかないのですが、屋上にはプールスパもあり、高層ビルが殆どないアムステルダムではなかなか得られない眺望が売りだそうです。これは建築物として扱われているのでしょうか。法規的な解釈にも寛容でないと実現が難しいと思われるホテルです。

フレーム上部に組み込まれているコンテナのような箱が客室。
アムステルダムの夜にそびえたつクレーン。一見してこれがホテルだとは誰も思わない。

これらの視察や街歩きを通して、オランダ人の「使い続けることを、ポジティブに捉えるマインド」を感じ取ることができました。古いものを使い続けることで、逆に「新しさ」を生み出しているのだと思います。

実はオランダは慢性的な労働力不足の問題を抱えており、解体から新築を計画することは多くの時間と労働力を要するため、プロジェクトとしてはリスキーになるそうです。

できるだけ手を掛けず、あるものを使ってしまおうという発想の改修プロジェクトが多い、という社会的な背景があります。結果として、その建物の持つ背景やストーリーが引き継がれることにより、新たな価値や魅力を形成しているという事がわかりました。

オランダ人のLearning by Doingの精神や使い続ける工夫から多くを学ぶことができ、この知恵をどのように展開できるかを考える良い機会になりました。

元来日本人も古いものを大切にする文化を持っています。今後、日本人らしい、日本の文化に適したサーキュラーエコノミーのあり方を模索していきたいと思います!

Text&photo:Jun Ito(竹中工務店)