「歩いて楽しいまち」をキーワードに、多様なアクティビティが溢れるまちを目指す岡山市の「まちなかウォーカブル推進事業」。これまで、まちなかのにぎわい創出や市街地回遊を目的に、岡山駅周辺エリアから旧城下町エリアまでを東西に結ぶ「ハレまち通り(旧県庁通り)」の再整備に取り組んできました。

そしてさらに、まち歩きを楽しむひとが憩える空間が増えれば、もっとまちの賑わいを創出できるのではないか。そんな期待のもと、公共空間の充実を図るために岡山市の下石井公園に天然芝の広場をつくる計画がスタートしました。

 

関わりしろが少ない、下石井公園の課題

岡山駅から徒歩で約10分のところに位置する下石井公園は、中心市街地のちょうど真ん中にある西川緑道公園沿いにあり、市立図書館や保育園とも隣接しており、多くのひとにとって「歩いて楽しいまち」のハブとなりうる立地のいい公園です。

しかし、市街地で暮らす人々からは「マチナカに公園がない」という声があがります。下石井公園は、土日こそさまざまなイベントが行われる、まちなかのにぎわいの中心にある公園ですが、平日は訪れるひとは少ないことが課題でした。理由はベンチの少なさ、日陰の少なさや夏場は地表温度があがって居場所がない砂地の広場など、公園の機能に市民の関わりしろが少ないのです。

そこで、「まちなかウォーカブル推進事業」を行っている岡山市庭園都市推進課 街なかにぎわい推進室は、下石井公園のまんなかにある広場を芝生化する計画をします。

 

まずはやってみる、48日間の社会実験

砂地の広場は、イベントの出店や子どもが駆け回るにはもってこいでしたが、ひとが「滞在できない空間」でもありました。

プロジェクトを担当した岡山市庭園都市推進課 街なかにぎわい推進室の舌崎博勝さんは、次のように語っています。

「わざわざ子どもを遊ばせるために、車に乗って少し遠い公園に遊びに行くひとも多いんです。それではマチナカに住んでいる意味がなくなってしまいます。

砂地グラウンドを芝生にすれば子どもも安心して遊べるし、ピクニックなんかもできるんじゃないかなと思って。そこで、2021年11月から12月の48日間にわたって、人工芝を敷く社会実験をしました」

机上の空論にとどまらず、実践しながらまちづくりのヒントを得る社会実験。芝生化がまちとひとの動きにどのような変化をもたらすかを知るため、2021年11月から12月にかけて、人工芝を敷く48日間の社会実験が実施されました。

実証実験中、裸足で気持ちよさそうに遊ぶ保育園の子どもたち

人工芝スペースにやってきた子どもたちは、思いっきり走りまわったり、ゴロゴロ寝ころんだり、動物になりきってごっこ遊びをしたり。芝生があることで彼らの豊かな感性が輝きます。

週末には家族連れの姿も。小さな子どもと遊びにきたお母さんからは「転んでも汚れないし、怪我の心配も少ない。気軽に子どもを遊ばせられる芝があってうれしい」といった声が寄せられました。

普段は交わらない小学生や高校生、大人が同じ空間にいるのも新鮮な光景

実験期間内の16日間では、芝生広場を楽しんだり、くつろぐための道具が詰まった「PUBLIC WAGON」の貸し出しサービスを実施しました。ワゴンには、『PLAY』『RELAX』『LIVING』『DINING』のテーマごとに自由に楽しんでもらえるアイテムが入っています。

芝生に登場した5台の楽しげなワゴン

テーブルとシートを取り出し、広げてご飯を食べる高校生や、ピクニックを楽しむ家族など、以前の下石井公園では見られなかった市民の姿をみることができたのです。

市民に新たなマチナカ暮らしの楽しみかたを提供し、市民のライフスタイルに変化をもたらした社会実験。まっさらなキャンバスに自由に絵を描くように、何もない芝生の上ではみんなが思いのままに楽しい時間を過ごすことができる。そんな方向性が見えた機会となりました。

 

みんなで考える、デザインミーテイング

市民からの好評を受け、天然芝を含めた下石井公園のリニューアルが決定。それに伴い、公園の未来を考える市民参加型の「下石井公園デザインミーティング」が2022年7月に開催されました。

第一部では、岡山市出身で暮らしにまつわる場づくりを手がける「株式会社まめくらし」の宮田サラさんによる基調講演が行われました。彼らが企画・運営するプロジェクトの事例をもとに、「自分の手で自分たちの暮らしを楽しくする」という考えをインプットします。

まちがおもしろくなると、自分たちの暮らしが豊かになることを改めて実感し、市民ひとりひとりがまちづくりに関わろうという意識が芽生えているように感じます。

ディスカッションを行った第二部の様子

第二部のディスカッションでは、岡山市や下石井公園周辺に縁ある4名が登壇し、日常的にみんなが使いやすい理想的な公園のかたちについて考えます。

「居心地の良い空間をつくるには、地道なコミュニケーションを積み重ねていくことが大切」「子どもから高齢者、単身世帯まで、多様なひとが“まちなかの居場所”として活用してほしい」といった意見が上がりました。

新旧の住民や、大人と子どもなど、いつもの暮らしでは出会わないひとと気軽に触れ合い、コミニティが形成できるのも公園という空間がもつ魅力のひとつといえます。

また、まちとひとをつなぐ役割を担う公園は、近隣の飲食店を営むひとや、まちづくりを行うあらゆるプレイヤーにとっても新しい活動の場となりそうです。

イベント当日の様子をグラフィックレコーディングでイラスト化したもの

 

天然芝が実現。岡山市は公民の対話で憩いの場が増えていく

殺風景だった公園から、芝生と木々の緑あふれる場所へ

たくさんのアイデアと市民の熱い思いが詰まった天然芝もついに東側半面が完成。2023年7月22日(土)にはお披露目会が開催され、多くのひとで賑わいました。

完成した芝生広場には、みんなが長期的に使える工夫が随所に施されています。芝は傷んだ後の回復がはやく踏まれ強い「改良高麗芝」を使用し、管理しやすい天然芝が誕生しました。また、「日陰がほしい」という市民からの要望に応えるため、2本の高木を設置。しっかり根を張るまでは葉を少なくして育て、大きな木影ができるのを心待ちにします。

密度の高いふかふかの芝で元気いっぱい走り回る子どもたち

芝生広場の縁には白いロングベンチでは、談笑する大人や、思いっきり遊んだ後に休憩する子どもの姿も。夜はベンチの足元で間接照明が点灯し、落ち着いた雰囲気を演出します。

さまざまなシーンで活躍しそうなロングベンチ

舌崎さん「以前は買い物や食事をするときは、車で全国チェーンの商業施設に出かけていたんです。でも、まちなかに出かけて個性的なお店やひとと出会い、岡山のおもしろさに気づくことができました。

まちを知っておもしろがってもらうには、ひとが集まったり滞在できたりする空間が大切。ウォーカブルなまちになれば、20年後、30年後も岡山らしさが続いていくんじゃないかなと思います」

官民一体となって、ソフト・ハード両面から考える岡山市のまちづくり。賑わい創出の重要な鍵を握る下石井公園は、完成までのプロセスに関わった市民にとって、より愛着のある場所となる予感です。

 

Text:岩井美穂(ココホレジャパン)